CMOSイメージセンサのノイズが発生する仕組みを正しく理解することは、デジタルカメラの画質の本質を知る上で極めて重要です。なぜ高感度撮影でザラつきが現れるのか。その答えは、センサ内部の物理現象にあります。
本記事では、CMOSイメージセンサ内部で発生するノイズの種類と原因を、4Tr画素構造と信号処理の流れに沿って体系的に解説します。
CMOSイメージセンサの基本構造と信号の流れ
CMOSイメージセンサの1画素は、主に以下の要素で構成されています。
- フォトダイオード(PD):光を電荷(電子)に変える
- 転送ゲート:電荷を移動させる
- フローティングディフュージョン(FD):電荷を電圧に変換する「バケツ」
- 増幅トランジスタ:信号を増幅して出力する
ノイズはこの一連の流れの「あらゆる段階」で発生します。重要なのは、ノイズの種類ごとに「発生場所」と「支配条件」が異なる点です。
1. ショットノイズ|光そのものが持つ物理的限界
ショットノイズは、光子が統計的にランダムに到達することによって生じるノイズです。
光は連続量ではなく「粒子」であるため、同じ照度条件でもフォトダイオードに到達する光子数には必ずばらつきが生じます。このばらつきはポアソン分布に従い、ノイズ量は信号量(光子数)の平方根に比例します。
- 特徴:光量が多いほどノイズの絶対量は増えますが、相対的なS/N比は向上します。
- 対策:物理法則に由来するため、回路工夫で除去することは不可能です。画素サイズを大きくして「受光量」を増やすことが唯一の物理的な解決策となります。
Physical Mechanism of Shot Noise
- Poisson Distribution: Light particles (photons) arrive at random intervals.
- The Paradox: More light means more total noise, but less noise relative to the signal.
- The Solution: Increasing pixel size (full-well capacity) to collect more photons is the only physical fix.
2. 暗電流ノイズ|「何も写していなくても」発生する熱雑音
暗電流ノイズは、光が入射していない状態でもフォトダイオード内部で生成される電荷に起因します。
これはシリコン結晶の欠陥において、熱エネルギーによって電子が勝手に飛び出してしまうためであり、温度が約 8°C 上がるごとに暗電流は倍増すると言われています。
- 暗電流ショットノイズ:暗電流の「ゆらぎ」がノイズとして残ります。
- 対策:センサの冷却や、シリコン表面の欠陥を抑える「埋め込み型フォトダイオード」技術が用いられます。
Mechanism of Dark Current Noise
- Thermal Generation: Heat energy kicks electrons out of the silicon lattice into the photodiode.
- Shot Noise of Dark Current: The random arrival of these “unwanted” electrons creates grain even in pitch black.
- Countermeasures: Pinned Photodiode (PPD) structures and cooling systems are essential for long exposures.
3. kTCノイズ(リセットノイズ)|電荷リセット時の電圧変動
kTCノイズは、信号を読み出す前にフローティングディフュージョン(FD)の電位をリセットする際に発生する熱雑音です。
FDはコンデンサ(容量)の役割を持ちますが、リセット時に熱揺らぎによって電圧に微小な誤差が生じます。
- 対策:CMOSセンサーでは相関二重サンプリング(CDS)という技術を用います。リセット直後の電圧と信号転送後の電圧の「差分」を取ることで、このノイズを理論上キャンセルしています。
4. 読み出しノイズ(リードノイズ)|暗所画質を支配する壁
読み出しノイズは、電荷を電圧に変換し、増幅・デジタル化(A/D変換)する過程で混入するノイズの総称です。主に増幅アンプやADC(アナログ・デジタル変換器)に由来します。
低照度環境では元の信号が極めて少ないため、この「読み出しノイズ」の大きさが画質の限界を決めます。近年の「裏面照射型(BSI)」や「積層型」構造は、このノイズを極限まで減らすために進化してきました。
5. 固定パターンノイズ(FPN)|画素ごとの「個性」
固定パターンノイズは、ランダムに動くノイズではなく、画面上の特定の場所に常に現れるノイズです。
- 原因:画素ごとのアンプの増幅率のわずかな違いなどが原因です。
- 見え方:画面に縦筋や点(ホットピクセル)として現れます。
- 対策:出荷時のキャリブレーションや、画像処理エンジンによる補正で除去されます。
6. 最新技術:ノイズを制する「デュアルコンバージョンゲイン」
近年の高性能センサーには、「デュアルコンバージョンゲイン(DCG)」技術が搭載されています。これは、光量に合わせてFDの容量を切り替える仕組みです。
- 明るい時:容量を大きくし、白飛びを防ぐ。
- 暗い時:容量を小さくし、電圧変換効率を上げることで読み出しノイズを相対的に抑える。
まとめ|ノイズの種類と特徴一覧
| ノイズ名称 | 発生源 | 主な要因 | 対策 |
| ショットノイズ | 光子 | 光の粒子のバラつき | 画素サイズの拡大 |
| 暗電流ノイズ | フォトダイオード | 熱、結晶欠陥 | 冷却、プロセス改善 |
| kTCノイズ | FDリセット | 電荷リセット時の熱雑音 | CDS(相関二重サンプリング) |
| 読み出しノイズ | 増幅・ADC | 回路設計、ADC精度 | 低ノイズアンプ、積層構造 |
CMOSイメージセンサのノイズは、光・材料・回路という複数の要素が重なって発生します。これらを理解することで、スペック表の数字だけでは見えない「本当のセンサー性能」を判断できるようになります。
外部リンク(参考文献):

コメント